個人事業主の消費税の確定申告とは?計算方法や申告手順、注意点を解説

個人事業主として売上が一定額を超えると、所得税だけでなく「消費税の確定申告」も必要になります。消費税の申告は、課税売上や仕入れにかかる税額を正確に計算し、納税する重要な手続きです。しかし、計算方法や申告の流れは複雑で、知らないと損をするケースも。本記事では、消費税申告の対象となる条件から、具体的な計算方法、申告の手順、注意点までをわかりやすく解説します。
個人事業主の消費税の確定申告とは?

個人事業主として事業を営んでいると、所得税だけでなく消費税の確定申告も必要になる場合があります。とくに「インボイス制度」の導入以降、これまで免税事業者だった個人事業主にも課税事業者としての対応が求められる場面が増えています。
この記事では、消費税とは何かという基本から、所得税との違い、そして消費税の課税対象となる取引の内容までをわかりやすく解説します。これから確定申告を行う個人事業主の方にとって、消費税の仕組みや申告の義務があるかどうかを判断する基礎知識としてご活用ください。
消費税とは?
消費税とは、商品やサービスの消費に対して課される税金で、最終的には消費者が負担するものです。しかし、実際の納税手続きは、販売者である事業者(個人事業主や法人)が行う必要があります。
つまり、個人事業主は事業活動の中で消費者から預かった消費税を、国(および地方自治体)に納付する義務があるということです。現在、日本の消費税率は10%で、食品などには軽減税率の8%が適用されることもあります。
消費税には以下の2種類があります。
- 国税(消費税):事業者が国に納める
- 地方税(地方消費税):事業者が都道府県に納める
これらを合計して「消費税」と呼ぶのが一般的です。
ただし、すべての個人事業主が消費税の申告・納税義務を負うわけではありません。次に、その判断基準と、所得税との違いについて見ていきましょう。
所得税と消費税の確定申告の違い
個人事業主にとって最もなじみ深いのは所得税の確定申告です。所得税の申告は、すべての個人事業主が必ず行うもので、売上や経費を基に「所得額」を計算し、これに基づいて税金を支払います。
一方で、消費税の確定申告は、一定の条件を満たす個人事業主のみが対象となります。
このように、両者は対象者・計算方法・納税方法が異なるため、別個に準備・申告が必要です。
特に、令和5年10月からスタートしたインボイス制度により、課税事業者としての申告義務が発生するケースが増えました。免税事業者であっても、適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)に登録すれば、消費税の申告が必要になります。
消費税の課税対象となる取引とは?
では、どのような取引が消費税の課税対象となるのでしょうか?基本的には、次の4つの要件をすべて満たす取引が「課税取引」とされます。
- 国内で行われる取引
- 事業として行われる取引
- 対価を得て行われる取引(無償提供は除外)
- 資産の譲渡、貸付、サービスの提供であること
たとえば、以下のようなケースは課税取引に該当します。
- フリーランスのライターがクライアントに納品し、報酬を受け取る
- デザイナーが制作したバナーやロゴを販売する
- コンサルタントが提供したサービスに対して料金を受け取る
一方、以下のような取引は非課税や不課税の対象となります。
- 家賃収入(住宅用)や教育に関する取引(非課税)
- 寄付や補助金など対価を伴わない取引(不課税)
このように、売上すべてが消費税の対象になるとは限りません。確定申告の際には、どの取引が課税対象であるかを正確に区分することが重要です。
参考:個人事業主の消費税はどう処理する? 計算や申告方法と注意点を解説
消費税の納税義務がある個人事業主とは?

個人事業主のすべてが消費税の確定申告や納税を行うわけではありません。一定の条件を満たす場合に限って、消費税の納税義務が生じるという仕組みになっています。
この記事を読んでいる方の中には、「自分が消費税の申告対象なのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。ここでは、課税事業者と免税事業者の違いや、課税事業者となる条件、そして2023年10月に導入されたインボイス制度と2割特例の影響について詳しく解説していきます。
消費税の「課税事業者」と「免税事業者」の違い
個人事業主は、大きく分けて「課税事業者」と「免税事業者」の2種類に分類されます。この違いは、消費税の確定申告と納税の有無に直結します。
- 課税事業者:消費税を取引先や顧客から預かり、それを申告・納税する義務があります。
- 免税事業者:売上にかかる消費税を顧客から預かっていても、それを国に納税する必要はなく、確定申告も不要です。
これまで、多くの個人事業主は「売上が少なければ免税でOK」という認識だったかもしれませんが、インボイス制度の導入によって事情が変わってきています。
課税事業者となる条件(基準期間・特定期間)
個人事業主が「課税事業者」として消費税の確定申告が必要になる条件は、原則として基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。
1. 基準期間とは?
基準期間とは、前々年(2年前)の1月1日〜12月31日までの期間のことを指します。
例:2025年分の確定申告 → 基準期間は2023年1月〜12月
この期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば、2025年は課税事業者となり、消費税の確定申告が必要になります。
2. 特定期間とは?
特定期間とは、前年の1月1日から6月30日までの期間です。
この期間の課税売上高または給与支払額が1,000万円を超えると、その年の事業年度から課税事業者となる可能性があります。
このように、2つの判定期間によって課税事業者かどうかが決定されるため、事業が軌道に乗って売上が伸びてきた個人事業主は、注意が必要です。
インボイス制度による影響と2割特例
2023年10月からスタートしたインボイス制度(適格請求書保存方式)は、個人事業主にとって大きな転換点となりました。
これまでは免税事業者でも請求書を発行して取引できましたが、インボイス制度により、課税事業者として登録(適格請求書発行事業者の登録)をしなければ、取引先が仕入税額控除を受けられなくなります。その結果、事業継続のために「免税事業者から課税事業者への切り替え」を選ぶ個人事業主が増加しています。
インボイス登録=課税事業者になる
インボイス発行事業者になるには、事前に国税庁への登録が必要です。この登録をすると、自動的に消費税の課税事業者として扱われ、確定申告と納税義務が発生します。
2割特例とは?
インボイス制度の導入で急遽課税事業者となった個人事業主の負担を軽減するために設けられたのが、「2割特例」です。
- 対象:インボイス登録をした元・免税事業者
- 内容:通常は「売上消費税額 − 仕入消費税額」で納税額を計算しますが、2割特例では売上消費税額の2割を納税額とする簡便な方法が認められます。
- 期間:2023年10月〜2026年9月までの3年間限定
この特例を活用することで、経理処理の負担を軽くしつつ、納税額も抑えることが可能です。
参考:個人事業主が消費税を払うのはいつから?課税事業者の確定申告や計算方法を解説
消費税の計算方法

消費税の確定申告において、最も重要な作業の一つが消費税の納税額を正しく計算することです。個人事業主の場合、消費税の計算方式は「原則課税方式」「簡易課税方式」「2割特例」の3種類があり、状況に応じて選択できます。
課税方式によって計算方法も大きく異なり、選び方次第で納税額や事務負担が大きく変わるため、正しい理解が必要です。ここでは、それぞれの課税方式の特徴と計算方法、そして自分に合った方式の選び方について詳しく解説します。
原則課税方式の仕組みと計算方法
原則課税方式は、正式名称を「本則課税」といい、もっとも正確で実務的な消費税の計算方式です。売上にかかる消費税から、仕入や経費などで支払った消費税を差し引いて、納税額を算出します。
原則課税方式の計算式
納付税額 = 売上に含まれる消費税額 - 仕入等に含まれる消費税額
たとえば、税抜き売上が1,000万円で、税率10%の場合、売上に含まれる消費税は100万円です。そこから、仕入れや経費などで支払った消費税(例:30万円)を差し引き、差額の70万円が納付すべき税額になります。
この方式では、全ての取引について消費税額を正確に集計・記録する必要があるため、日々の帳簿管理やインボイス保存が重要です。会計ソフトを使って記帳する場合は、取引ごとに「課税区分」や「税率」を入力する必要があります。
簡易課税方式の仕組みと計算方法
簡易課税方式は、一定の事業規模以下の個人事業主を対象とした、簡便な計算方式です。原則課税と異なり、実際の仕入れにかかる消費税額を計算する必要がなく、売上高に業種ごとに定められた「みなし仕入率」をかけて納税額を算出します。
簡易課税方式の計算式
納付税額 = 売上に含まれる消費税額 × (1 - みなし仕入率)
たとえば、売上にかかる消費税が100万円で、業種が「サービス業(みなし仕入率50%)」の場合、
100万円 × (1 - 0.5) = 50万円
となり、納税額は50万円です。
簡易課税が選べる条件
- 前々年の課税売上高が5,000万円以下であること
- 事前に税務署へ「簡易課税制度選択届出書」を提出していること
※一度選択すると2年間は原則課税へ戻せない点には注意が必要です。
簡易課税は、インボイス保存が不要で経理負担が軽いため、仕入や経費が少ない業種(デザイン、コンサルティングなど)に向いています。
2割特例の概要と適用条件
インボイス制度導入によって新たに課税事業者となった個人事業主を支援するため、2023年10月から「2割特例」という簡易的な計算方法が導入されました。
2割特例のポイント
- 対象:免税事業者からインボイス登録した課税事業者
- 適用期間:2023年10月~2026年9月までの3年間
- 計算方法:売上に含まれる消費税額の2割を納税額とする
計算式(例)
売上に含まれる消費税額が100万円の場合、
100万円 × 0.2 = 20万円(納税額)
2割特例は、特に経費が多い個人事業主にとっては不利になることもありますが、「帳簿を詳細に管理できない」「消費税の確定申告が初めてで不安」という方には有効な制度です。
なお、この制度を利用する場合、仕入税額控除をしない代わりに、帳簿保存などの負担も軽減されます。
自分に合った課税方式の選び方
消費税の確定申告における課税方式の選択は、納税額だけでなく経理負担にも直結します。以下のポイントを参考に、自分に合った方式を選びましょう。
例えば、売上は大きいけれども経費が少ない業種(士業、ライター、コンサル等)であれば「簡易課税方式」や「2割特例」の方が納税額が少なくなる可能性があります。一方で、経費が多く発生する製造業や小売業などは「原則課税方式」の方が有利になることも。
選択に迷う場合は、税理士や会計ソフトのシミュレーション機能を活用するのがおすすめです。
消費税の確定申告の流れ

消費税の課税事業者となった個人事業主は、毎年の確定申告時期にあわせて消費税の申告と納税を行う必要があります。所得税の申告とは異なる書類・手続きが必要になるため、正しい流れを事前に把握しておくことが重要です。
このセクションでは、消費税の確定申告の流れについて、申告時期や方法、必要書類、そして申告書の作成方法までをわかりやすく解説します。
申告時期と申告方法(e-Tax・書面提出など)
消費税の確定申告は、毎年1月1日から12月31日までの1年間の取引を対象に、翌年の3月31日までに申告・納税するのが原則です。
消費税の申告期限
- 提出期限:毎年3月31日まで
- 納付期限:原則として3月31日まで
※ただし、3月31日が土日祝日の場合は、翌営業日が期限となります。
申告方法は3つから選択可能
- e-Tax(電子申告)
国税庁のオンラインシステムを使って申告書を電子提出する方法。事前準備は必要ですが、税務署に行かずに完結する点がメリット。 - 書面提出(郵送または持参)
申告書を印刷して税務署に郵送または直接提出する方法。印鑑が必要となることもあり、郵送の場合は到着日ではなく「消印日」が提出日として認められます。 - 税理士による代理申告
顧問税理士がいれば、代理で消費税の申告を行ってもらうことも可能です。
必要書類と準備すべきもの
消費税の確定申告を行うには、いくつかの書類とデータの準備が必要です。スムーズな申告のために、以下のものを事前に用意しておきましょう。
必要書類一覧
- 消費税及び地方消費税の確定申告書(第一表・第二表)
- 課税売上・仕入れに関する帳簿や請求書
- インボイス(適格請求書)の保存資料(該当者)
- 課税方式に応じた計算明細書(簡易課税や2割特例用)
- 青色申告決算書や所得税の確定申告書(連携が必要な場合)
- 税務署から届いた申告書一式(事前送付されている場合)
また、e-Taxで申告する場合は、以下も準備しておきましょう。
- マイナンバーカード
- ICカードリーダー(またはマイナポータル連携用アプリ)
- e-Tax利用者識別番号と暗証番号
帳簿や証憑類は、税務調査などがあった際に必要になるため、最低7年間の保存義務があります。特にインボイス制度導入後は、請求書の保存要件が厳格化されています。
申告書の作成方法(国税庁サイト・会計ソフト・手書き)
消費税の申告書は、「国税庁のサイト」「会計ソフト」「手書き」のいずれかで作成可能です。それぞれの方法にはメリット・デメリットがあるため、自身の状況に合わせて選びましょう。
1. 国税庁の「確定申告書等作成コーナー」
- 無料で使えるオンラインツール
- 初心者でも画面に沿って入力すれば申告書が完成
- e-Tax連携でオンライン提出も可能
- 対応する課税方式に限りがあるため、複雑な内容には不向き
2. 会計ソフト(freee、マネーフォワード、弥生など)
- 日々の取引入力が申告書作成に自動連携
- 原則課税・簡易課税・2割特例すべて対応
- 計算ミスが少なく、帳簿も自動保存
- 有料プランが多いが、確定申告の負担を大幅軽減
3. 手書きで作成
- 国税庁のPDFフォームをダウンロードして記入
- 記載ミスや集計ミスのリスクがある
- 初心者にはややハードルが高いが、コストはかからない
消費税の納付方法と期限

納付期限と納税スケジュール
個人事業主が行う消費税の確定申告には、決められた納付期限があります。消費税の申告書は翌年3月31日までに提出し、同日までに納税しなければなりません(※期限が土日祝日の場合は翌営業日)。
納付が遅れると延滞税や加算税といったペナルティが課されることがあるため、所得税と同様にスケジュール管理が重要です。なお、消費税は「申告」と「納付」がワンセット。申告だけして納税を忘れるというミスには注意が必要です。
納税方法の種類(振替・ダイレクト・クレカなど)
消費税の納付には、いくつかの方法があります。自分のライフスタイルや事業形態に合わせて、最適な方法を選びましょう。
- ダイレクト納付(e-Tax)
e-Taxを使って、指定口座から即時または予約による振替ができる便利な方法です。手数料がかからず、自宅から手続きできます。 - 振替納税(口座振替)
事前に税務署へ届出をすることで、申告後に自動的に引き落とされます。納付日は申告期限の約1カ月後で、資金繰りに余裕が持てます。 - クレジットカード納付
国税庁指定サイトを通じてクレジットカードで支払う方法です。ポイントが付くメリットがある一方で、手数料(1万円あたり83円~)が発生します。 - インターネットバンキング/ATM/窓口納付
従来通り、銀行や税務署の窓口での納付も可能です。領収書を手元に残したい場合などに適しています。
中間申告が必要なケース
消費税には、確定申告のほかに中間申告が必要な場合があります。中間申告とは、前年の消費税納付額が一定以上だった場合に、年の途中で前払い的に納税する仕組みです。
中間申告が必要となる条件は以下の通りです。
- 前年の確定消費税額が48万円を超える → 年1回の中間申告
- 400万円超 → 年3回
- 4,800万円超 → 月次申告(年11回)
中間申告は、対象者に対して税務署から通知が届きます。忘れると延滞税が発生する可能性があるため、該当する個人事業主はスケジュールをしっかり管理しましょう。
消費税の経理処理と仕訳方法

税込処理方式と税抜処理方式の違い
消費税の経理処理には「税込経理方式」と「税抜経理方式」の2つがあります。それぞれの特徴を理解し、自分の事業に適した方法を選ぶことが大切です。
- 税込処理方式:
取引金額に消費税を含めた金額で記帳する方法。シンプルでわかりやすいため、小規模事業者に向いています。
例:税込11,000円の仕入→「仕入11,000円」と記帳。 - 税抜処理方式:
消費税を分離して記帳する方式で、より正確な財務管理が可能。
例:11,000円の仕入→「仕入10,000円」「仮払消費税1,000円」と記帳。
税抜処理を行う場合は、「仮払消費税」や「仮受消費税」の科目を用いて、後に消費税の確定申告時に精算仕訳が必要です。
勘定科目と帳簿記帳のポイント
消費税の経理処理においては、適切な勘定科目の選択と記帳のルールが非常に重要です。主な勘定科目には以下のものがあります。
- 仮受消費税:売上に対して預かった消費税を記録
- 仮払消費税:仕入や経費で支払った消費税を記録
- 租税公課:納税時の仕訳処理などに使用
また、仕訳の際には次の点に注意しましょう。
- 税率(10%/8%)を正しく区分して記帳
- 課税取引/非課税取引の区別を明確に
- インボイス対応取引の記載を確実に行う
会計ソフトを使用すると、これらの処理を自動で対応してくれるため、経理ミスの防止と効率化につながります。
インボイス対応の帳簿保存要件
2023年10月に開始されたインボイス制度では、消費税の仕入税額控除を受けるために、以下の2つの保存が必須になります。
- 帳簿の保存:取引内容(取引先、日付、金額、適用税率など)を記載
- インボイス(適格請求書)の保存:PDFも可。ただし要件を満たしたものに限る
保存期間は原則として7年間。保存が不十分だと、消費税の控除が認められず、納税額が増えるリスクがあります。
特に、簡易課税ではなく原則課税を選択している場合は、帳簿・請求書の保存は消費税の確定申告に直結しますので、注意が必要です。
参考:個人事業主の消費税、いつから払う?納税義務と免除要件、税額の計算方法
消費税の確定申告で注意すべきポイント

個人事業主が行う消費税の確定申告には、税率や制度変更への対応、書類の保存義務など、さまざまな注意点があります。とくに消費税は申告や経理処理に専門的な知識が必要なため、小さなミスが大きなペナルティに繋がることも珍しくありません。
ここでは、消費税の確定申告において特に注意しておきたいポイントとして、申告漏れや期限遅れのペナルティ、課税方式の選択ミス、還付申請に関する注意点の3つについて詳しく解説します。
申告漏れや期限遅れのペナルティ
消費税の確定申告は、毎年3月31日までに完了しなければなりません。申告書の提出と納付のどちらかが遅れてしまった場合、以下のようなペナルティ(加算税・延滞税)が課されることがあります。
主なペナルティの種類
- 無申告加算税:申告をしなかった場合に課され、税額の15%(条件によっては5%)が加算されます。
- 延滞税:納付が遅れた日数に応じて発生。年利7.3%(または法定利率)で計算されます。
- 重加算税:意図的な隠ぺいや虚偽がある場合、最大で税額の35%が加算されることも。
特にインボイス制度の開始により、「消費税の確定申告が初めて」という事業者も増えている中で、申告漏れのリスクが高まっています。会計ソフトや税理士を活用し、期限内の確実な申告・納付を心がけましょう。
課税方式の選択ミスによるデメリット
消費税の確定申告においては、「原則課税方式」「簡易課税方式」「2割特例」といった課税方式の選択が、納税額に大きく影響します。選択ミスをすると不必要に多く税金を払ってしまうリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
よくあるミスの例
- 経費が多いにもかかわらず簡易課税方式を選んでしまい、本来よりも多く納税してしまった。
- 簡易課税の方が有利だったのに原則課税を選択し、帳簿の手間と納税額の両方が増えた。
- 2割特例の方が負担が少なかったのに制度を知らず適用しなかった。
一度「簡易課税制度選択届出書」を提出すると、2年間は原則課税に戻せないため、短期的な判断ではなく長期的な収支や業種特性を考慮することが大切です。
還付を受けられるケースと注意点
個人事業主が行う消費税の確定申告では、一定の条件を満たすことで消費税の還付を受けることが可能です。特に、輸出業や設備投資が多い事業者にとっては重要な制度です。
還付が受けられる主なケース
- 輸出取引:海外向けの売上は消費税が非課税であるため、仕入や経費にかかった消費税が戻ってくる。
- 設備投資が多い年度:高額な仕入れや設備導入によって、仮払消費税が仮受消費税を上回ると還付される。
還付申請の注意点
- 還付申告を行うには、税抜経理方式を採用し、原則課税方式を選択している必要があります。
- 帳簿・請求書の保存要件を満たしていないと、仕入税額控除自体が認められず、還付も受けられません。
- 虚偽の申告やミスがあると、還付金が支払われるまでに時間がかかったり、調査の対象になったりすることがあります。
また、還付金は振込によって返還されるため、確定申告書には振込先の正確な口座情報を記載する必要があります。
参考:個人事業主は消費税をいつから払う?課税タイミングと計算方法、確定申告の注意点を解説
個人事業主が節税のためにできること

個人事業主として事業を運営する中で、消費税の確定申告と納税負担は無視できない経費の一つです。しかし、税金は制度を正しく理解し、戦略的に行動することで合法的に節税することが可能です。
ここでは、消費税の節税対策として特に効果的な「売上や経費の調整」「簡易課税制度の活用」「法人成りによる節税」の3つの視点から、個人事業主ができる対策を解説します。
売上や経費の調整
個人事業主が消費税の課税事業者となる基準は、主に前々年または前年の売上高(課税売上)が1,000万円を超えるかどうかです。そのため、基準期間における売上を調整することで、翌々年の課税義務を回避することが可能です。
具体的な調整の工夫
- 売上の計上時期をコントロールする
納品や請求のタイミングを調整し、売上が1,000万円を超えないように工夫する。 - 経費を積極的に活用する
課税売上高を抑えることは難しくても、課税対象外の売上や非課税取引の割合を増やすことで、課税対象売上の割合を下げることができます。
ただし、節税のためだけに不自然な売上操作を行うと、税務署から疑念を持たれる可能性があるため、あくまでも事業活動の範囲内での適切な調整が必要です。
簡易課税制度の活用
簡易課税制度は、前々年の課税売上高が5,000万円以下の個人事業主が選択できる制度で、実際に支払った仕入税額を計算しなくてもよいという特徴があります。これにより、会計処理の手間が大幅に軽減されるだけでなく、業種によっては納税額が少なく済むというメリットもあります。
簡易課税制度のメリット
- 帳簿付けや請求書の保存義務が緩やか
- 課税売上に対して定率控除(みなし仕入率)を適用するだけ
- インボイス発行事業者でも活用可能
例えば、コンサルタント業(みなし仕入率50%)の個人事業主が、実際の経費が20%程度しかなかった場合でも、50%を控除できるため節税効果が大きくなります。
注意点
- 事前に「簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しておく必要があります。
- 一度選択すると2年間は原則課税に戻せないため、慎重な判断が求められます。
自分の業種や収支バランスを見極め、簡易課税制度の有利不利を事前にシミュレーションしておくことが大切です。
法人成りによる節税の可能性
ある程度の売上規模に成長した個人事業主にとっては、「法人成り(法人化)」することで消費税を含めたトータルの税負担を軽減できる可能性があります。
法人成りの節税メリット
- 2年間の免税期間が得られる
法人を新設すると、原則として最初の2期は消費税が免除されます(条件あり)。 - 所得分散による所得税・住民税の節税
代表者報酬と役員報酬に分けることで、所得税の累進課税を緩和。 - 経費計上できる範囲が広がる
社会保険料や福利厚生費など、個人では難しい費用も法人であれば経費に計上しやすい。
注意点
- 設立コスト(登記費用、顧問税理士費など)が発生する
- 会計・税務処理が複雑になる
- 消費税の課税売上が早期に1,000万円を超えると免税が適用されないケースも
法人成りには一定の準備と費用がかかりますが、長期的な視点で事業を拡大していく場合には消費税を含むトータルの税コストを抑える有力な手段となります。
参考:個人事業主の消費税はいつから払う?課税されるタイミングや計算方法も紹介
個人事業主の消費税や確定申告に関するよくある質問

消費税の確定申告は必要?
すべての個人事業主が消費税の確定申告をしなければならないわけではありません。基本的には、前々年の課税売上高が1,000万円を超えた場合に課税事業者となり、申告義務が発生します。ただし、2023年10月から始まったインボイス制度の影響で、売上1,000万円未満の免税事業者でも、インボイス発行事業者として登録した場合は課税事業者扱いとなり、消費税の申告・納税が必要になります。
消費税の計算はどうする?
消費税の計算方法には、「原則課税方式」と「簡易課税方式」、さらに「2割特例」があります。
原則課税方式は、売上に含まれる消費税から、仕入や経費にかかる消費税を差し引いて納税額を計算します。簡易課税方式は、業種ごとの「みなし仕入率」を用いて簡略化した計算が可能です。2割特例は、インボイス登録した元・免税事業者が、売上消費税額の2割を納税額とできる制度です。自身の事業規模や経費比率に応じて、最適な課税方式を選ぶことが節税のカギとなります。
インボイス登録したけどどう申告する?
インボイス発行事業者として登録した個人事業主は、自動的に課税事業者となります。そのため、翌年の確定申告時には、消費税の申告書(第一表・第二表)を作成し、3月31日までに提出・納付する必要があります。
申告書の作成方法は、国税庁の「確定申告書等作成コーナー」や会計ソフトの利用が一般的です。インボイス対応の帳簿や請求書の保存も義務化されているため、帳簿管理と経理体制の見直しもあわせて進めましょう。
参考:個人事業主における消費税の確定申告は?納税義務や申告方法について
消費税の確定申告を正しく行うために

個人事業主にとって、消費税の確定申告は制度理解・経理処理・申告作業と、多くのステップが必要な手続きです。課税事業者に該当するかの判定、課税方式の選択、正確な計算と帳簿管理が求められます。
特に、インボイス制度によって申告対象者が拡大した現在、これまで免税だった事業者も申告義務が発生する可能性があります。ミスや申告漏れを防ぐためにも、会計ソフトの活用や税理士への相談を積極的に検討しましょう。
正しい知識と準備があれば、消費税の確定申告も怖くありません。本記事が、みなさまの申告業務に少しでも役立てば幸いです。