確定申告で経費にできるものとは?個人事業主向けの具体例と判断基準を解説

確定申告では、事業にかかった費用を「経費」として計上することで、課税される所得を減らし、節税につなげることができます。しかし「これは経費にして大丈夫?」「プライベートと兼用している場合は?」と迷うことも少なくありません。本記事では、個人事業主が経費にできる代表的な項目や判断基準、注意すべきポイントまでを具体例を交えてわかりやすく解説します。

確定申告における「経費」とは何か?

確定申告における「経費」とは何か?

個人事業主が確定申告を行う際、「経費」とは欠かせないキーワードです。正しく経費を理解し、適切に申告することで、所得税や住民税の節税にもつながります。この記事では、個人事業主にとっての経費の基本的な考え方や、確定申告時に経費として認められる要件、節税効果について詳しく解説します。

経費の基本的な考え方

そもそも「経費」とは、個人事業主が事業を運営する上で必要不可欠な支出のことを指します。国税庁の定義では、「総収入金額を得るために直接必要な費用およびその年における販売費・一般管理費などの業務上必要な支出」が該当します。

(参考:必要経費の知識|国税庁

たとえば、商品の仕入れ費用、営業活動に使用した交通費、ホームページの制作費、業務用スマートフォンの通信費などが代表的です。これらはすべて、売上を上げるため、あるいは業務遂行のために支出されていることが前提となります。

ただし、プライベートな支出と明確に区別されている必要があり、曖昧な場合は「家事按分(かじあんぶん)」といって事業に関係する割合のみを経費として計上します。これは後述する自宅兼事務所の家賃や光熱費、自家用車のガソリン代などに適用される考え方です。

また、経費の記録は「勘定科目(かんじょうかもく)」という分類で行います。これは確定申告書に記載するために必要で、代表的な勘定科目には「通信費」「旅費交通費」「消耗品費」「広告宣伝費」などがあります。

個人事業主にとっての経費の重要性

個人事業主にとって、経費を正しく計上することは極めて重要です。その理由は、経費として認められた支出は売上(収入)から差し引くことができ、結果として「課税対象となる所得」が少なくなるためです。

たとえば、年間500万円の売上があったとしても、経費が300万円かかっていれば、実際の所得は200万円となります。この200万円に対して所得税や住民税が課されるため、課税額が大きく変わってきます。

また、経費の管理は事業の実態を正しく把握するうえでも重要です。どのような支出が多いのか、どの経費が売上に直結しているのかを把握することで、経営判断の精度も上がります。

さらに、金融機関から融資を受ける際や補助金・助成金の申請時にも、経費を含む帳簿内容はチェックされることが多く、信頼性の高い記帳を行っているかどうかが評価のポイントになります。

経費計上による節税効果とは

経費計上の最大のメリットは、節税効果です。個人事業主は所得に応じて累進課税が適用されるため、所得が多ければ多いほど税率も高くなります。そのため、必要経費をしっかりと計上することで課税所得を圧縮し、納税額を抑えることができます。

特に青色申告をしている個人事業主であれば、最大65万円の「青色申告特別控除」が適用されるうえ、家族に支払う給与を「専従者給与」として経費にできたり、30万円未満の資産を一括で経費計上できる「少額減価償却資産の特例」も活用可能です。

また、経費を計上する際には、必ず領収書やレシートなどの証憑(しょうひょう)類を保管しておくことが求められます。2024年からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入により、消費税の仕入税額控除を受けるための要件も厳格化されました。これに対応するためにも、事業用クレジットカードや経費精算アプリを活用して、日々の支出を明確に記録しておくことが、節税と効率的な経費管理の両立に役立ちます。

参考:個人事業主の確定申告で経費にできるものは?書き方・勘定科目一覧

経費として認められるかの判断基準

経費として認められるかの判断基準

個人事業主が確定申告で「経費」を計上する際に重要なのが、「その支出が本当に経費として認められるかどうか」の判断です。ただ支出があったからといって、すべてが経費になるわけではありません。誤って経費として計上してしまうと、税務調査で否認され、追徴課税などのリスクが発生します。この章では、確定申告で経費と認められるための判断基準について解説します。

事業関連性の有無がカギ

確定申告において、経費として認められる最大のポイントは「事業との関連性があるかどうか」です。つまり、その支出が個人事業の売上獲得や業務遂行に直接関係している必要があります。

たとえば、営業のために使用した交通費や、業務上必要なソフトウェアのライセンス費、打ち合わせで利用したカフェの代金などは、事業に関連する支出と見なされやすく、経費として計上できます。

一方で、「なんとなく仕事に関係している気がする」という曖昧な理由では経費とは認められません。たとえば、仕事中に飲んだコンビニのジュースやプライベート旅行中のガソリン代などは、明確な事業目的がない限り経費としては認められない可能性が高いです。

経費の適正な判断を行うためには、「その支出が売上を得るために必要だったか」を軸に、自問自答することが基本となります。

プライベートとの違いを明確に

個人事業主の場合、事業用の支出と私的な支出の境界が曖昧になりやすいという特性があります。しかし、確定申告ではこの「公私の区別」を明確にしておくことが極めて重要です。

たとえば、自宅兼事務所で使用しているパソコンやスマートフォン、インターネット回線などは、仕事でもプライベートでも使うことがあるため、全額を経費にすることは基本的に認められません。このような場合は、どれだけの割合で事業に使っているかを明確にして、その分だけを経費として計上する必要があります。

また、衣類や化粧品など、業務でも使えるがプライベートでも使用されるものは、原則として経費にはなりません。たとえば、「お客様対応用に購入したスーツ」も、日常的に使用される可能性があるため、経費と認められないケースが多いです。

このように、プライベートな支出を誤って経費に含めてしまうと、不正計上と見なされるリスクがあるため注意が必要です。

家事按分が必要なケースとは

個人事業主の確定申告で頻繁に登場するのが「家事按分」という考え方です。これは、ひとつの支出に対して事業用と私用が混在している場合に、事業に関係する部分だけを経費として計上する方法です。

たとえば、自宅の家賃や電気代、水道代、インターネット料金などは、生活費としての側面もありますが、事業に使用している部分があれば、その割合だけを経費として申告できます。

具体的な按分の方法としては、

  • 自宅の床面積のうち、事務所として使っている面積の割合
  • 1日のうち、仕事で使用している時間の割合
  • 月間の通話や通信量のうち、業務利用分の割合

などを基準にします。たとえば、自宅のうち20%が仕事スペースとして使われている場合、家賃や光熱費の20%を経費として計上できます。

なお、家事按分を行う場合は、割合の根拠を記録しておくことが重要です。根拠のない按分や、過度に高い割合での計上は、税務署に否認されるリスクがあります。Excelやメモアプリなどで簡単に記録を残しておくと、後から説明がしやすくなります。

参考:個人事業主の確定申告経費では何をいくらまで落とせる?勘定科目一覧や必要書類を解説

個人事業主が経費にできるもの【勘定科目別に解説】

個人事業主が経費にできるもの【勘定科目別に解説】

個人事業主が確定申告で経費として計上できるものは多岐にわたりますが、すべての支出が経費になるわけではありません。経費として正しく分類するためには、「勘定科目」の知識が不可欠です。ここでは、確定申告でよく使われる代表的な経費の種類を、勘定科目別に具体例を交えて解説します。

代表的な経費の一覧と具体例

通信費・水道光熱費

通信費とは、業務に必要なインターネットや電話回線、携帯電話などの通信に関わる費用を指します。個人事業主がビジネス用に使用しているスマートフォンの通話料やモバイルWi-Fi、Zoomなどのオンライン会議サービスも通信費として計上できます。

一方、水道光熱費は、電気代・水道代・ガス代など、オフィスや事務所、自宅兼事務所で事業活動に使用される分の費用です。自宅を事務所として使っている場合は「家事按分」によって事業に関わる割合を算出し、その分のみを経費として申告する必要があります。

地代家賃

事業用のオフィスや店舗、倉庫などの賃貸料は「地代家賃」として経費に計上できます。たとえば、レンタルオフィスの使用料やシェアオフィスの月額費用も対象となります。

自宅を仕事場として使用している個人事業主も、仕事に使っている部屋の割合分だけ家賃を経費として申告できます。こちらも通信費や光熱費と同様、合理的な根拠に基づく「家事按分」が必要です。

旅費交通費

取引先への訪問や打ち合わせ、出張時の移動費などは「旅費交通費」に分類されます。電車代、バス代、タクシー代、高速道路料金、ガソリン代などが代表的です。また、業務目的の宿泊費や出張先での食費(合理的範囲内)も計上可能です。

注意点として、通勤のための交通費は会社員とは異なり、原則として経費にできません。あくまで「事業のための移動」であることが求められます。

参考:個人事業主の経費はどこまで計上できる?範囲や上限、一覧を紹介

消耗品費・新聞図書費

消耗品費・新聞図書費

文房具、封筒、プリンターのインク、コピー用紙など、使用頻度が高く10万円未満で耐用年数が1年未満の物品は「消耗品費」に該当します。これらは日常的な業務遂行に必要不可欠であり、多くの個人事業主が活用する勘定科目です。

また、ビジネス書籍や新聞、業界誌の購入費用は「新聞図書費」に分類されます。情報収集やスキルアップのための出費も、業務に関連していれば経費として認められます。

広告宣伝費・接待交際費

自社の商品やサービスを認知させるための広告費用は「広告宣伝費」として経費計上できます。たとえば、SNS広告の出稿費、Webサイト制作費、名刺の印刷費などが該当します。

また、取引先との関係強化のための飲食費や贈答品などは「接待交際費」にあたります。ただし、あくまで事業目的であること、金額が常識的な範囲であることが前提です。個人的な飲み会や家族との食事代は経費にできないので注意が必要です。

外注費・賃金給与・専従者給与

業務の一部を外部のフリーランスや業者に委託した際の費用は「外注費」として経費になります。たとえば、Webデザイン、記事執筆、動画編集などの外部発注がこれに該当します。

従業員に支払う給料は「賃金給与」、家族に支払う給与で要件を満たしている場合は「専従者給与」として処理できます。青色申告であれば、事前に税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することで、家族への給料も全額経費として認められます。

減価償却費(10万円以上の備品など)

パソコン、業務用カメラ、オフィス家具など10万円以上の高額な資産は、その年に全額を経費にするのではなく「減価償却費」として、数年に分けて費用計上します。これにより、資産の価値が年々減っていく形で経費処理されます。

なお、青色申告をしている個人事業主は、30万円未満の資産であれば「少額減価償却資産の特例」を利用して、購入した年に一括で経費計上することができます。これを活用することで、より効果的に節税が可能です。

業種ごとの経費例

業種によって、よく使われる経費やその割合には違いがあります。以下に代表的な業種ごとの経費例を紹介します。

  • Webデザイナー・クリエイター系
    パソコン・デザインソフト使用料・ストック素材購入費・クラウドサービス利用料・取材や撮影費用などが経費になります。自宅作業が中心の場合、自宅家賃や光熱費の家事按分も重要です。
  • 飲食業・小売業
    仕入れや備品購入、レジや厨房機器の減価償却、ユニフォーム、販促用チラシ印刷費などが経費になります。店舗賃料や水道光熱費の比率も高くなります。
  • 講師・コンサルタント業
    セミナー会場費、交通費、プレゼン資料の印刷代、オンライン講座の運営費、情報収集のための書籍・新聞購入費などが該当します。ZoomやGoogle Meetの有料プランも経費にできます。
  • 美容・リラクゼーション業
    施術に使用する化粧品や道具類、ベッドやタオル類の消耗品費、店舗家賃、宣伝用のチラシ・Web広告などが主な経費です。
  • ライター・ブロガー・YouTuber
    取材費・書籍代・取材交通費・動画機材の購入費(減価償却)・編集ソフト代などが対象です。自宅作業が中心のため、通信費や家賃の按分も重要になります。

参考:【個人事業主】経費にできるものは?経費計上の勘定科目や上限・節税テクニックを解説

家事按分が必要な経費と計算方法

家事按分が必要な経費と計算方法

個人事業主が確定申告で経費を計上する際に悩みやすいのが、「事業とプライベートの両方で使っている支出」です。このような支出は、事業に使っている割合だけを経費にする必要があり、これを「家事按分」と呼びます。
家事按分は正しく行えば節税に有効ですが、基準が曖昧だと税務署に否認される可能性もあります。ここでは、家事按分が必要な代表的な経費と、その計算方法について解説します。

自宅兼事務所の場合の家賃・光熱費

自宅を事業の拠点として使っている個人事業主は少なくありません。その場合、家賃や電気代、水道代、ガス代などを全額経費にすることはできず、事業に使っている分だけを按分して計上します。

たとえば、以下のような基準で按分割合を算出します:

  • 自宅のうち、事業に使用している部屋の床面積
  • 使用時間の割合(1日のうち何時間を業務に使っているか)
  • 実際の使用実績(例:平日は業務に使用、土日はプライベート利用など)

【例】
1LDK(50㎡)のうち、10㎡の書斎を業務専用に使っている場合:
→ 按分割合:10㎡ ÷ 50㎡ = 20%
→ 家賃10万円の場合、2万円を経費として計上可能。

さらに、光熱費も同様に按分します。業務時間が長いほど、事業用として使っている割合が増えるため、時間や使用量に基づいた割合を設定するのが望ましいです。按分比率の根拠はメモやExcelで記録しておき、万が一の税務調査に備えましょう。

自家用車を事業で使う場合のガソリン代など

自家用車を業務にも使用している個人事業主の場合、ガソリン代や高速料金、車検代、保険料などを全額経費にするのは適切ではありません。この場合も家事按分が必要です。

按分の基準としては、以下のような方法があります:

  • 月間の総走行距離と業務での走行距離の割合
  • 使用時間(平日は業務、週末は私用など)
  • 経路の記録(Googleマップなどで移動距離を記録しておくと便利)

【例】
月間走行距離1,000kmのうち、業務に使ったのが400kmであれば、按分割合は40%。ガソリン代が月1万円であれば、4,000円を経費として申告できます。

このように、走行距離をしっかり記録しておくことが、合理的な家事按分の根拠になります。走行記録アプリやスマートフォンのGPS機能を活用するのもおすすめです。

携帯電話・インターネットの通信費

携帯電話やインターネット回線も、事業と私生活の両方で使われることが多いため、家事按分が必要な経費の代表例です。
特に、個人事業主の場合はプライベートと兼用しているケースが多く、按分を怠ると不適切な経費計上になってしまいます。

按分方法としては、以下のような基準が考えられます。

  • 1日の通話・通信時間のうち、業務に使用した時間の割合
  • 電話帳や通話履歴から、業務関係者とのやり取りの比率を推定
  • 月のデータ使用量のうち、業務利用サービス(Zoom、Slack、Dropboxなど)にかかる分の割合

【例】
携帯電話の月額料金が8,000円で、業務利用が全体の50%であれば、4,000円を通信費として経費にできます。

また、インターネット回線についても、Web会議や業務用アプリにどれだけ利用しているかを明確にし、按分率を設定しましょう。証拠として、業務利用しているアプリの使用履歴や契約プランの内容を保管しておくと安心です。

参考:個人事業主が覚えておきたい勘定科目一覧!経費の仕訳方法についても解説

経費として計上できないものの例

経費として計上できないものの例

個人事業主が確定申告を行う際、「これは経費になるのでは?」と感じる支出の中には、実際には経費として認められないものも少なくありません。経費として不適切な支出を計上してしまうと、税務署からの指摘や追徴課税のリスクが生じます。ここでは、確定申告で経費にできない代表的な支出の例を3つのパターンに分けて解説します。

プライベートな支出(生活費・医療費など)

最も基本的なルールとして、個人事業主の私的な生活費は確定申告で経費にはできません。以下のような支出は、どれだけ日常的にかかっていても、事業に直接関係がないとみなされれば経費としては認められません。

経費にならない主なプライベート支出の例

  • 自分や家族の食費
  • 家庭用の日用品(洗剤、トイレットペーパーなど)
  • 医療費や健康診断費用(仕事のためでも原則NG)
  • 旅行・レジャー・趣味の費用
  • 日常的な衣服や化粧品代

たとえば、「打ち合わせ前に買ったスーツ」や「業務中に使った日焼け止め」などは、業務との関係があるように感じても、日常生活でも使用できるため原則として経費にはできません。これらは「業務専用であること」が明確にできない支出として否認されるリスクが高いため、計上には細心の注意が必要です。

事業主自身の給与や保険料、税金

法人であれば代表者報酬を経費にできますが、個人事業主が自分自身に支払う給与は、経費として計上できません。個人事業の場合、「事業主=労働者」であり、給与という概念がないためです。

また、以下のような支出も事業主個人の負担とされ、経費計上はできません。

経費にできない主な項目

  • 事業主自身の国民年金・健康保険料(所得控除の対象)
  • 事業主個人の所得税・住民税(納税は個人の義務)
  • 延滞税・加算税・交通違反の反則金などの罰金・制裁金

なお、税金については「事業にかかる税金」(例:個人事業税、固定資産税など)は「租税公課」として経費に計上できますが、所得税や住民税などの「個人の税金」は経費にはできないという点をしっかり区別しておきましょう。

さらに、自宅や車の購入費用をローンで支払っている場合の「元金部分」も経費にはできません(利息のみが「支払利息」として計上可能)。ローン返済をそのまま経費にしてしまわないよう注意が必要です。

家族への報酬や慶弔費などの注意点

家族に手伝ってもらったり、親族に業務を依頼する個人事業主は多いかもしれませんが、家族への報酬は一定の条件を満たさなければ経費にできません。

具体的には、以下のようなルールがあります。

青色申告の場合

「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に事前に提出していれば、生計を一にする配偶者や親族への給与も全額経費にできる可能性があります。ただし、支給額が相場からかけ離れていたり、実際に業務を行っていない場合は経費として認められません。

白色申告の場合

専従者控除として、配偶者は最大86万円、その他親族は最大50万円までしか経費にできません。給与の実態や金額を超えて計上することはできないため注意が必要です。

また、以下のような慶弔関連の支出も基本的には経費として認められません:

  • 家族・親戚の冠婚葬祭費用
  • 友人へのお祝い金やお香典
  • 年賀状やお中元・お歳暮(事業関係が不明確な場合)

ただし、取引先や顧客への贈答品や慶弔費であれば、常識的な範囲内で「接待交際費」として経費計上できる場合もあります。この場合も、金額や目的、相手との関係性が明確であることが前提です。

参考:個人事業主の必要経費とは?青色申告の控除65万円についても解説

確定申告書での経費の記載方法

確定申告書での経費の記載方法

個人事業主が確定申告で経費を正しく申告するためには、経費を適切に記帳・分類し、確定申告書に正確に反映させる必要があります。記載方法は「青色申告」と「白色申告」で異なり、それぞれに求められる書類や記帳のルールも変わってきます。また、会計ソフトを使えば経費処理の手間を大きく減らすことが可能です。ここでは、申告区分ごとの記入方法と、会計ソフトを使った効率的な経費処理について解説します。

青色申告と白色申告での記入の違い

個人事業主が選択できる確定申告には「青色申告」と「白色申告」があり、それぞれ経費の記載方法に違いがあります。

青色申告の場合

青色申告では、複式簿記による記帳が求められ、「青色申告決算書(損益計算書・貸借対照表など)」を提出する必要があります。経費は「損益計算書」の中にある「経費の内訳欄」に、勘定科目ごとに分けて記入します。

たとえば、

  • 地代家賃:100,000円
  • 通信費:8,000円
  • 消耗品費:12,000円
  • 外注費:50,000円

このように細かく項目別に記載する必要があります。

また、青色申告を行うことで、最大65万円の「青色申告特別控除」が受けられるメリットがあります。これを受けるには、正確な帳簿づけとともにe-Taxによる電子申告、あるいは電子帳簿保存の要件を満たす必要があります。

白色申告の場合

白色申告では、簡易簿記による記帳でよく、提出書類も比較的シンプルです。経費は「収支内訳書」の中の「経費の明細」欄にまとめて記入します。

たとえば

  • 旅費交通費:30,000円
  • 通信費:6,000円
  • 雑費:3,000円

白色申告は手続きが簡単ですが、控除額のメリットが小さいため、事業規模が大きくなるにつれて青色申告を選ぶ個人事業主が増えています。

どちらの申告方法でも、経費は「勘定科目ごと」に分類し、証拠となる領収書や請求書を保管しておくことが必要です。

会計ソフトを使った経費処理のコツ

経費の記録や確定申告書の作成は、手作業でも可能ですが、会計ソフトを導入することで圧倒的に効率化できます。とくにfreeeやマネーフォワード、弥生などのクラウド会計ソフトは、個人事業主向けの機能が充実しています。

会計ソフトを活用することで、以下のようなメリットがあります。

  • 自動仕訳機能:銀行口座やクレジットカードを連携すると、明細が自動で取り込まれ、内容に応じた勘定科目で自動仕訳されます。たとえば、携帯料金の引き落としは自動で「通信費」に分類されます。
  • レシート読み取り機能:スマートフォンでレシートを撮影すると、自動的に日付・金額・取引先などを読み取り、帳簿に反映可能です。
  • 税制改正に対応:インボイス制度や電子帳簿保存法など、最新の税制改正にも随時対応しており、安心して申告作業を進められます。
  • 提出書類を自動作成:経費を日々記録しておけば、確定申告時には青色申告決算書や収支内訳書、確定申告書Bが自動で作成され、e-Taxを通じてそのまま提出できます。

効率的に経費処理をするコツ

  1. 経費に使うクレジットカードや口座は事業専用にする
  2. 会計ソフトと連携し、支出を自動で記録・分類
  3. 領収書や請求書をスマホで撮影し、クラウドに保存
  4. 月に一度は仕訳内容を見直して確認する

これにより、経費処理の精度が上がるだけでなく、税務調査への備えにもなります。

参考:個人事業主や自営業が経費にできるもの・できないもの。確定申告のための管理方法は?

経費をもれなく計上するためのコツ

経費をもれなく計上するためのコツ

個人事業主が確定申告で節税を実現するには、必要経費を正確に、そしてもれなく計上することが重要です。どれだけ事業に必要な支出をしていても、適切に帳簿へ反映されていなければ経費として認められず、納税額が無駄に多くなることもあります。ここでは、経費を正しく申告するために必要な「証憑書類の保存」「電子データの扱い」「ビジネスカードの活用」について詳しく解説します。

領収書・証憑類の保存ルール

経費を申告するには、支出の内容や金額、日付を証明する書類=証憑(しょうひょう)類の保存が欠かせません。個人事業主が確定申告で経費を計上する際には、以下のような書類をしっかりと保管しておきましょう。

  • 領収書
  • レシート(明細が明確であれば領収書の代用可)
  • 請求書
  • クレジットカード明細
  • 銀行振込明細書・通帳記録

国税庁では、帳簿書類は7年間の保存義務があると定められています。特に青色申告を選択している場合、重加算税や修正申告などの対象になった際に過去分を求められることもあるため、確実な管理が必要です。

領収書の保存には「日付順」「勘定科目別」「取引先別」などでファイリングしておくと、後から確認しやすくなります。また、スマートフォンで撮影し、会計ソフトと連携するなどしてデジタル保存する方法も推奨されます。

電子取引データの保存要件と注意点

インターネットを通じて商品やサービスを購入する機会が増えた今、電子取引の証憑管理も重要性を増しています。2022年1月の電子帳簿保存法の改正により、電子取引で受け取った請求書・領収書などは、電子データのまま保存することが義務付けられました(PDF印刷保存は原則NG)

個人事業主が気を付けるべきポイントは以下の通りです。

  • メール添付で受け取った請求書は、メール本文と添付ファイルを一緒に保存
  • オンラインショップでの購入履歴・明細はPDFなどでダウンロードし保管
  • 保存ファイルは取引日・金額・取引先などで検索できる状態にする
  • フォルダ構成やファイル名にルールを設け、分類しやすくしておく

freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使えば、自動で電子保存要件に対応している場合も多く、確定申告時のミスを防げます。

電子帳簿保存法に違反した場合、青色申告の承認取消や、経費の否認といったリスクがあるため、対応が不安な場合は税理士や専門家に相談するのもよいでしょう。

ビジネスカードを活用するメリット

経費の計上漏れを防ぐうえで、ビジネスカード(事業用クレジットカード)を使うのは非常に効果的です。個人事業主が経費精算をスムーズに行い、確定申告に向けた帳簿づけを効率化するためには、事業用と私用の支出を明確に分けることがポイントになります。

ビジネスカードの主なメリットは以下の通りです。

  • 経費の支払いを一元化できる:光熱費・広告費・通信費などを1枚で管理でき、記録も明確に
  • 自動連携で記帳作業を省力化:会計ソフトと連携すれば、利用明細がそのまま仕訳に反映される
  • ポイント還元や付帯保険が充実:年会費無料や高還元率のカードもあり、出張やトラブル時も安心
  • 証憑の裏付けとして明細が使える:領収書がなくても、明細と取引履歴で補完できるケースもあり

特に開業直後の個人事業主にとっては、ビジネスとプライベートのお金の流れを明確に分けることで、確定申告時のミスや混乱を防げるメリットが大きいです。

参考:【個人事業主向け】確定申告の経費と家事按分について~申告書の書き方を詳しく解説~

経費の不正計上によるリスクとは

経費の不正計上によるリスクとは

個人事業主が確定申告で経費を計上する際、意図せずに「経費として認められない支出」を含めてしまうケースがあります。これが税務署に指摘されると、修正申告を求められるだけでなく、加算税などのペナルティが課せられる可能性もあります。節税のつもりで行った経費計上が、結果として多額の追徴課税につながることもあるため、経費の取り扱いには注意が必要です。

ペナルティの種類(過少申告加算税・重加算税など)

確定申告において、実際よりも経費を多く見積もったり、虚偽の内容で経費を水増しして申告すると、以下のようなペナルティ(加算税)が課されることがあります。

過少申告加算税

本来よりも少ない所得税を申告していた場合に課される税金です。加算税の割合は原則として10%ですが、税務調査の後に修正申告を行った場合は15%に引き上げられることもあります。

無申告加算税

申告期限までに確定申告をしていなかった場合に課されます。税率は原則15%、状況によっては20%に達することもあります。

重加算税

意図的に虚偽の申告や隠ぺい行為があったと判断された場合に課される非常に重いペナルティで、加算率は最大で40%にもなります。たとえば、実際には発生していない経費を計上したり、架空の領収書を添付していた場合などが該当します。

このように、不適切な経費計上は大きなリスクを伴います。悪意がなくても、税務署の調査で指摘されれば、ペナルティの対象になる可能性があるため、日々の記録と証拠管理がとても重要です。

正しい経費管理のためのポイント

個人事業主が確定申告で安心して経費を申告するためには、日常的な経費管理の精度を高めることが必要です。以下のポイントを意識しておくと、経費の不正計上を防ぐことができます。

  • 領収書やレシートを必ず保管する
    支出の都度、すぐに保存。金額や用途が分からないものは経費計上しない。
  • 事業との関連性が説明できる支出のみ経費にする
    「この支出はなぜ必要だったのか」を自分で説明できることが大前提です。
  • プライベートと事業の支出を明確に分ける
    口座やクレジットカードを分けるだけでも記録の精度が向上します。
  • 会計ソフトを活用し、日々の帳簿づけを習慣化する
    自動仕訳や帳簿の自動作成により、ヒューマンエラーを防ぎやすくなります。
  • 迷ったときは税理士などの専門家に相談する
    不安なまま申告するよりも、専門家に相談した方が結果的に安全で正確です。

参考:個人事業主が経費にできるもの・できないものを一覧で解説!

よくある質問

よくある質問

個人事業主が確定申告で経費を計上する際、「これって経費にしていいの?」と迷う場面は少なくありません。ここでは、特に質問の多い4つのケースについて、税務上の扱いを分かりやすく解説します。

Q. 食費やカフェ代は経費になりますか?

基本的に個人の食費は経費にはなりません。ただし、事業目的が明確であれば、一定の条件下で経費として認められるケースもあります。

たとえば、取引先との打ち合わせで利用したカフェ代や、会食費用は「接待交際費」として計上可能です。領収書とあわせて「日時」「相手先名」「目的」などをメモしておくと、税務調査の際にも安心です。

一方、自分一人で仕事中にランチを取った場合や、作業の合間に立ち寄ったカフェでの支出は、私的な食事とみなされるため経費にはなりません。業務との関連性が説明できるかがカギになります。

Q. スーツや眼鏡など仕事用の衣類は経費になりますか?

スーツや眼鏡など、日常でも使用できるものは原則として経費にできません。

税務上のルールでは、「通常の生活でも使えるもの」は経費として認められにくいという考え方があります。スーツや靴、眼鏡、化粧品などは業務で使うことがあっても、私生活でも使う可能性が高いため、個人の支出として扱われるのが一般的です。

例外的に、舞台衣装やコスチューム、作業着など、明らかに業務専用で私用できない衣類であれば、経費計上が認められることもあります。この場合も、領収書や用途の記録を残しておくことが重要です。

Q. 資格取得費用は経費として認められますか?

業務に必要な資格の取得にかかった費用は、経費として認められる場合があります。

たとえば、税理士や行政書士、宅建士、美容師など、個人事業主の本業に直結する資格であれば、試験費用や教材費、講座の受講料は「研修費」や「教育費」として計上できます。

ただし、業務と直接関係がない資格や、趣味の延長とみなされるようなケースでは、経費にはできません。また、大学や専門学校への進学など、長期的な教育費も原則として経費対象外です。

経費として申告する際は、「この資格が業務にどう活かされているか」を説明できるようにしておくことが大切です。

Q. 開業前の支出は経費になりますか?

はい、開業前の準備にかかった費用も「開業費」として経費にできます。

個人事業主が開業準備のために購入した備品や、ホームページ作成費用、事務所の契約費用などは、開業後に「繰延資産」として計上し、償却して経費化していくことが可能です。

なお、青色申告の場合は「開業費」の全額をその年に一括で経費処理することも可能で、節税にもつながります。

ただし、「開業前の家賃」や「生活費」といった事業に明確に関連しない支出は対象外です。領収書をしっかり保管し、支出目的をメモしておくと、申告時の説明にも役立ちます。

参考:確定申告で経費にできるもの一覧~書き方のポイントや計上できるもの一覧